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東京家庭裁判所 昭和60年(少)9356号 決定 1985年12月26日

少年D・K子(昭44.3.5生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  昭和60年6月24日午後8時20分ころ、東京都新宿区○○町×丁目××番×号○○ビル4階デイスコ○○○において、A子から依頼され、同人が他人から窃取して来た賍物である財布2個及びその在中のアドレス帳など5点を賍物であることの情を知りながら、同店に設置されているコイン・ロッカー142番に入れて施錠し、もって、賍物の寄蔵をしたもの、

第2  同年6月6日虞犯保護事件により保護観察に付されて帰宅したのに、保護者である両親の正当な監督に服しない性癖があり、一週間余り保護者の許に落ち着いたのみで、家出をし、正当な理由もなく家庭に寄り付かず,家出中に新しく盛り場で知り合った不道徳な男女と交際し、同人方等を泊り歩き、遊技場で夜明しをするなどの乱れた生活をしていたものであって、同年6月25日虞犯事件(同年少第9356号)の受理時点において、そのまま放置するときには、生活に困るなどして、窃盗等の罪を犯すおそれがあつたもの、

第3  同年7月16日上記第2の虞犯事件により在宅試験観察に付されて、少年鑑別所から帰宅したのに、保護者である両親の正当な監督に服しない性癖があり、同年8月27日家出をし、新宿区、渋谷区内の盛り場を転々とし、ディスコやボーリング場で夜明しをし、同月31日警察官に保護されるまで正当な理由がなく家庭に寄り付かず、かつ、いかがわしい場所に出入りしていたものであって、同年9月2日虞犯事件(同年少第12911号)の受理時点において、そのまま放置するときは、生活に困るなどして、窃盗等の罪を犯すおそれがあったもの、

第4  同年9月24日上記第1から第3までの事件の審判を受け、試験観察を継続し、八王子市内の財団法人○○苑に補導委託されたところ、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、同年12月1日同所から逃走し、所在をくらまし、犯罪性のあるBと交際し、新宿区、渋谷区の盛り場のディスコ等のいかがわしい場所に出入りし、レンタルルーム、ホテル、B方を泊り歩き、正当な理由もなく家庭に寄り付かずにいたものであつて、同年12月16日虞犯事件(同年少第20226号)の受理時点において、そのまま放置するときには、生活に困るなどして、窃盗等の罪を犯すおそれがあったものである。

(適用した法令)

上記第1の事実につき 刑法256条2項

上記第2から第4までの事実につき少年法3条1項3号イ、ロ、ハ

なお、付言するに、本件第2から第4までの事件は、時期を隔てて3回にわたり受理した虞犯事件であるところ、これらについては、終局審判の時点を基準として包括し、1個の「審判に付すべき事由」として認定すべきであるとの見解があり得るけれども、少年審判の「審判に付すべき事由」は、事件の受理において受働的立場にある家庭裁判所にとっては、事件受理の時点で送致機関等により特定され、審判の対象として認定を負託された要件事実であるから、原則として事件受理の時点において存在する事実をもつて組成されると解すべきであり、この理は、少年に対する一種の人格評価である虞犯の事件であっても同様である(いわば終局審判時の虞犯性は、これに相当するいわゆる非行性として要保護性の一要素となつて少年審判の判断に反映する。)。本件第2から第4の各虞犯事件は、基本的には少年の同じ生活態度や問題に由来しつつも、それぞれ異つた状況のもとで新しく生じた虞犯事由を中心として構成されているのであつて、敢えてこれらを包括し一個の「審判に付すべき事由」として認定すべき特別の事由はないから、3個の「審判に付すべき事由」として認定する(もっとも、このような場合、少年審判規則25条の2により併合して審判すべきことが複数の犯罪事件の場合よりも一層強く求められるのは当然である。)。

(処遇の理由)

少年の資質、生活史、非行歴、処遇経過及び家庭その他の生活環境については、調査記録にあるとおりであるところ、これら及び本件非行内容など審判に現われた諸事情、特に

1  少年は、普通域の知能をもつものの、精神的に未熟であり、思考が硬く、ひとりよがりな判断をし勝ちであり、陽気で楽天的でかつ自己顕示的である反面、気が強く、自己中心的で著しく我儘であり、無責任な行動に出易い傾向や目先の快楽に引かれて場当りの逸脱行動に走る傾向が顕著であって、内省するところの少い人柄であること、

2  少年は、中学生のころ歌手や女優を志したものの、果せず、また、昭和59年4月入学した高校にも馴染めず、生活が崩れ出し、同年7月原動機付自転車の窃盗により検挙され、同年9月高校を中退し、両親に反対されながら異性との交際を続け、やがて無断外泊、家出に発展しつつも、同年11月の窃盗事件による保護的措置(審判不開始)でおさまるかに見えて、すぐに再び乱れ、両親の指導に反抗し、同60年5月から同年12月まで非行事実欄記載のとおり3回虞犯事件により処遇されて来ているのであり、この間気儘な生活を求めて家出や委託先からの逃走をし、不純異性交遊等にふけり、不安定就労の状態にあったものであること、

3  少年の両親は、概ね健常であり、少年の指導に熱意をもつけれども、やや厳しさに欠け、補導委託中には指示に反した無断休日帰宅を秘匿していたりし、少年の甘えを容認していたものであり、かつ現状の少年を社会内で適切に監督できる力を失っていること、

4  少年自身も再三にわたる社会内処通の試みに従わず、自助の心に欠けていること

などを総合して少年の要保護性を検討するならば、上記経過の少年に社会内処遇を続けることは相当でなく、この際収容して保護し、短期に集中した矯正教育を授け、少年に自己仰制力を涵養させ、現実的な生活態度を身につけさせることが必要であると認められるので、少年を中等少年院に送致することとする。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項により、主文のとおり決定する。

なお、少年の非行性の程度等に照らし、少年に対しては、一般短期処遇が相当であると思料し、別途その旨の勧告をする。

(裁判官 杉山英巳)

処遇勧告書<省略>

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